ウェルネス・サイクルツーリズムという言葉を聞いたことはあるでしょうか。記事執筆時の2024年9月時点ではまだあまり知られていないかもしれません。
簡単に言うと、ウェルネスツーリズムにサイクリングを取り入れたものがウェルネス・サイクルツーリズムです。
ウェルネス・ツーリズムで「生の感覚を戻す」
「ウェルネスツーリズム」という言葉は既に広まりつつあり、「ウェルネス」とは一般的に「豊かな人生を送るためのアクション」と言われます。少し哲学的な言い方をすると「生きている感覚を取り戻す」ということです。
1917年に旧ソ連の言語学者シクロフスキーが発表した論文「手法としての芸術」の中で次のように述べています。
われわれは普段、初めて体験したときに味わうような新鮮さを生活の中で失いながら、ルーチンと化した“日常”を生きている。自動化とはそうした事態を指す。自動化された日常の中で、機械的に漫然と日々をやり過ごすとき、われわれは、端的に言って、生きていない。「生の感覚を戻す」とは、その生き生きとした感覚を取り戻すことだ。
つまり、我々は日常生活の中でルーチン的な生活を繰り返すことで、少しずつ生きている感覚を失っているということです。シクロフスキーは芸術によって生の感覚を取り戻すことができると言いますが、この生の感覚を戻すことがウェルネスではないでしょうか。
芸術に触れることもそうですが、観光での新たな経験、初めて目にする風景、初めて出会う人との交流などによって「生の感覚を戻す」ことがウェルネス・ツーリズムではないかと思うのです。
自転車とウェルネス・ツーリズム
自転車はウェルネス・ツーリズムととても相性の良い手段です。実は自転車に乗りながら見る風景は、車から見る風景とは大きく異なります。
一般的に自転車というと、単なる移動手段かロードバイクで疾走するレースのような趣味での利用をイメージされるかもしれません。
しかしサイクルツーリズムはこれとは少し異なった自転車利用の新しいスタイルです。今回はウェルネス・ツーリズムにサイクリングを加えた「ウェルネス・サイクルツーリズム」を、東京在住の30代女性 RさんとKさんに体験してもらいました。
1日目は新鮮な海の幸とサウナを満喫
今回、訪問したのは富山県。東京から北陸新幹線で約2時間半。9時半に東京を出発するとちょうどお昼には富山に到着します。到着したらまずはランチ。富山といえばなんといっても富山湾の新鮮な海の幸を使ったお寿司です。さっそく駅近くのお店で腹ごしらえ。
本日の宿は3月に滑川でオープンしたばかりの「くらすサウナつるぎ」です。サウナ好きにはたまらないサウナ入り放題の一棟貸切のお宿です。到着後はサウナ三昧で、立山の雄大な山々をみながらゆっくりサウナで整えることができます。肌寒い夜は薪ストーブをボーッと眺めながらゆったりした時間を過ごします。
2日目は神秘的スポットを体験
翌日は上市の大岩まで移動し、ここから自転車で観光します。自転車はモンベルの電動アシスト付きマウンテンバイクのシャイデックを使い、大岩山日石寺まで走ります。
二人とも今回が初めてのE-BIKE体験です。Kさんは、最初、乗り慣れないE-BIKEに乗るのが不安だったようですが、坂道をグイグイ登っていくE-BIKEのパワーを体感して楽しんでいました。写真では分かりにくいですが、緩やかな坂道のあと、急な上り坂が待っています。重いマウンテンバイクですが、アシスト機能のおかげで軽快に登っていました。
日石寺へ行く前に近くの大岩千巌渓(おおいわせんがんけい)に立ち寄ります。渓流と貴重な苔の森の中に御堂がある、神秘的なスポットです。
そしていよいよ大岩山日石寺に到着!日石寺の見所はこちらの不動明王。正式名称は磨崖仏(不動明王及び二童子像、阿弥陀如来坐像、僧形坐像)です。平安時代に自然の岩壁をそのまま彫ったもので、富山県内最古で最大の石仏です。
日石寺の名物はそうめんで、境内には2軒のそうめん屋さんがあります。ここで食べる生そうめんは格別です。
また、滝行を体験することもでき、真夏のサイクリングの〆にはもってこいです。ちなみに今回は5月ということもあり、滝行はしませんでした。参拝後は、スタートした場所に戻ります。
帰りは下り坂で、爽快な走りが楽しめます。マウンテンバイクのタイヤは一般的な自転車と比べて太いため、速度が出ても安定した走行ができます。舗装路のちょっとした段差があっても問題ありません。
本来は、ゴールにある大岩不動の湯にて温泉に入って終了でしたが、今回は時間の関係で入ることができませんでした。
初めての自転車観光、感想は?
体験後にお二人からお話を聞きました。
HaNeRi :「今回、自転車観光を体験してみていかがでしたか?」
Kさん:「走る前は観光で自転車に乗るイメージが湧かず、不安で正直少し億劫でしたが、乗ったらアシストが効いて、軽快に乗ることができました。」
Rさん:「自転車というと単なる移動手段としてしか考えていなかったのですが、観光に取り入れると今までとは違う観光体験ができますね。短時間でしたが、とても楽しかったです。」
ウェルネス・ツーリズムというと時間にゆとりを持ってのんびりするイメージがありますが、今回は滞在時間が24時間と限られていました。そのため、せわしくなるかと心配していましたが、二人の満足度は非常に高かったとのことです。
車で移動する場合、離れた距離にある複数のスポットを回ることができますが、移動中は単なる移動となってしまいがちです。もちろん途中で綺麗な景色を見ることができますが、自転車の場合は自身の体力とペースに合わせつつ、風や自然を感じながら進むことができ、移動中でも観光している感覚が得られます。
そのため、自転車を使った観光の場合、時間があまりなくても充実感が高まるのです。こうして二人は「生の感覚」を取り戻して東京に帰っていきました。
記事を書いた人:よそい