vol.6 (前編)津和野町Yu-na「守られてきた魅力を体験できるストーリーツアーを」

島根県津和野町 石飛さん、岡野さん

島根県津和野町の魅力をストーリーと共に五感で体験できるツアーブランド「津和野体験Yu-na」

津和野に魅了されたメンバーによって立ち上げられ、ありのまま残る自然や、城下町が一つ一つ積み重ねてきた歴史や文化を堪能できるツアーを提供しています。

今回のインタビューでは、Yu-naの石飛聡司さんと岡野優衣さんに津和野の魅力やE-BIKEを活用したツアーについてお話しいただきました。

石飛聡司さん(写真右)
島根県出雲市生まれで2歳から広島に移住。
企業勤務や個人事業主を経験後、株式会社mintを設立。
電動自転車を利用して観光地だけではないローカルな魅力を体験できるサイクリングツアー「sokoiko!」を展開。

岡野優衣さん(写真左)
広島県広島市出身。
大学時代に津和野のモニターツアーに参加したことがきっかけで、新卒で地域おこし協力隊として津和野に移住。
体験型ツアーを提供する「津和野体験Yu-na」の代表として、津和野の魅力が楽しめる企画や発信活動をおこなう。

目次

ストーリーツアーに出合うまで

大学時代 モニターツアー参加
モニターツアーに参加した大学時代の岡野さん

HaNeRi:本日はよろしくお願いします。早速ですが津和野の観光に携わられるまでのおふたりのご経歴を教えてください。

石飛:企業勤務や個人事業主を経て会社を設立し、現在は広島を拠点にインバウンド向けサイクリングツアーの企画運営をしています。

広島は東京~大阪のゴールデンルートを通ってくる方にとって西の最後の観光地になることが多く、有名な平和公園や宮島をまわって日帰りで帰ってしまう観光客がほとんどなのですが、もっと深く広く魅力を伝えたい、そして滞在してほしいという思いがあり、2~3時間のサイクリングツアーを企画しました。

そうすれば、じっくり広島を体験してもらうために宿泊を伴う観光になり、「せっかく宿泊するのであれば、周辺エリアや九州も観光してみよう」と、より広いエリアの観光を楽しんでもらえるようになるのではないかと考えたんです。

最初は名所を回ってその場所の説明するツアーをしていたのですが反応が悪く、どうすれば満足度を高められるか試行錯誤して、起承転結型のツアーにたどり着きました。

まず導入でツアーの魅力やエリアに関する歴史などをお伝えし、それを実際に体験できる場所にお連れして、その当時の人の思いやメッセージを感じてもらう流れにしたところ、このストーリーツアーを非常に喜んでいただけるようになりました。

その活動を知ってくださった津和野からインバウンド観光に関する講演会の依頼を受けたご縁で、津和野でもそのストーリーツアーをやりたいと考えて、観光推進をご一緒しています。

岡野:私は大学3年生のとき、コロナ禍でも社会との接点を持てないかと、オンラインでできるインターン先を探していました。観光支援事業をしている企業でインターンできることになり、そこで石飛さんと出会いました。

大学4年生のときに津和野のモニターツアーにお誘いいただき、そこで津和野に一目惚れしたんです。

卒業間際の2月に最後のインターンとして津和野を訪れていた際、石飛さんたちから今後も津和野で働かないかとご提案いただきまして、当初は内定をいただいている東京の企業で働く予定でしたが、最終的には自分の大好きな場所である津和野で働くことを決めました。

HaNeRi:人生の大きな決断ですね。

石飛:岡野がモニターツアーに参加しているときの反応から、本当に津和野という場所が心に響いているのが周りにも伝わってきたんです。数々の壁を超える姿勢やフィーリングの相性なども踏まえて、「津和野のストーリーツアーを作れるのはこの人しかいない!」と思い、誘いました。

就職予定の企業があったことも知っていましたし、津和野に来てくれるとなったからには誘った自分たちもしっかりやらねばと、熱量を持続させて構想を形にしていきました。そういう意味でも岡野はキーマンです。

守られてきた津和野の文化や自然

津和野の景色 城跡
津和野の城跡

HaNeRi:津和野の魅力は何ですか。

岡野:昔からあるものをずっと守り続けたいと地域の人が考えていて、実際に実現しているところです。例えば、3~4つある神事は400年以上続いています。

他の例だと、津和野の観光エリアに通じる広い道をつくろうとする開発計画が上がったのですが、その際も「そのままの形で保存したい」という地域住民の意向が強く、現状の道を残すことになりました。

このように、経済か文化かを選択しなければいけない場面では、文化を優先してきた歴史があります。サステナブルという言葉が近年よく使われますが、その言葉が広まる前からずっと自然環境や文化を保ち続けています。津和野のサイクリングツアーに参加したときにもそのことを感じました。

中でも私のお気に入りは山に囲まれた田んぼなんですが、ストーリーを聞いた後にツアーで訪れると感慨深いです。ガイドがいて友達がいて、その状況で見る津和野の自然が大好きです。

石飛:自分は島根県出雲市生まれで出雲に馴染みがあるのですが、初めて津和野に来た際に「出雲の景色に似ているな」と、ノスタルジックという言葉がぴったり当てはまる感情になりました。

夕方ということもあってか切なさが押し寄せ、これは言葉では表しきれないのですが、津和野にしか感じないフィーリングがあったんです。「ここで何かやりたい」と直感で思いました。

HaNeRi:言葉で表現しきれないほどの魅力がある場所なのですね。

石飛:そしてツアーを作るために津和野について深堀りしていくと、直感でいいなと感じた景色は、当たり前に残っていたものではないと気づきました。開発計画のタイミングで情景を残そうと動いた人たちがいて、そのおかげで「見させてもらってる景色」だと知りました。

津和野には山城、城下町、自然、文化財がありますが、そこに人の暮らしが溶け込んで調和しているところも特長です。また、平野がない山間部なので、来た瞬間に別世界のトリップ感を味わえます。

そうした経験ができるのは、やはりいろんな決断をしながら守ってきてくれた人たちのおかげなので、「活用させていただく」という視点で何かお手伝いをしたいと考えました。そして、きちんと津和野の魅力やエピソードを伝えられる手段として、ツアーが有効だと判断しました。

「津和野百景図」を感じるサイクリングツアー

津和野駅前の津和野今昔の幕の前からスタートする様子
サイクリングツアースタート時の様子

HaNeRi:どんなツアーを実施されているのですか。

石飛:一番最初に企画したのは「Keep the Time 〜日本遺産・百景図を巡るサイクリングツアー〜」です。まず、テーマにしている「津和野百景図」そのものが魅力的なんです。

幕末に殿様に使えていた栗本 格斎(くりもと かくさい)という人物が、明治時代にお殿様の子孫から「江戸時代の津和野の素晴らしさを残したい」と依頼されたことで津和野の情景を100枚の絵にしました。

幕末から約40年後に当時の情景を思い出しながら描いているのですが、非常に豊かな情景を映しています。お殿様の子孫から依頼があるほど江戸時代の津和野が愛されていることが分かりますが、その絵の情景からも、栗本が津和野で過ごした日々が印象深かったことが伺えます。

そして、その約160年前に描かれた情景と、いまの景色がびっくりするほど同じなんです。ツアーでは、E-BIKEに乗って百景図に描かれた場所を巡り、人々の思いと守ってきたものを3時間でお伝えしていきます。

フィナーレでは「津和野でずっと守られてきた、1000年以上生きているあるものに会いに行く!」というお楽しみを用意しています。ここはぜひ、実際に来て体験してほしいです。

HaNeRi:ストーリーを聞いて実際にその世界に浸れる、作り手の想いがこもったツアーですね。ラストの展開も気になります。

石飛:百景図がテーマということもあり、津和野でしかできないツアーです。運営側としても非常に自信を持っているコンテンツです。

農家さんの旬野菜を楽しめる「おつかいツアー」

otsukai!ツアー
おつかいツアーで農家さんと交流

HaNeRi:「Otsukai! ~農家さんの旬野菜でピザをつくるサイクリングツアー~」も気になりました。

岡野:こちらは、E-BIKEでサイクリングしながら2〜3軒の農家さんを訪問して旬の野菜を「おつかい」して、ピザを作っていただく体感型ツアーです。

ツアーの舞台は観光のメインエリアではなく、農家さんがたくさんいらっしゃる郊外の畑迫(はたがさこ)地区です。民泊施設「畑迫 ほたるの宿」でアースオーブンという高性能のピザ窯があるので、そこで地元の方と一緒に食材を使ってピザを作りや交流を楽しんでいただきます。自然を満喫しながらサイクリングしてお腹を空かせ、人と交流しながら食べる新鮮なピザは絶品ですよ。

ツアーを始めた時期は参加者との交流を恥ずかしがっていた農家さんもいらっしゃったのですが、いまでは「歓迎」の幕を準備するなどのおもてなしをして、参加者との交流を楽しみにされています。参加者は若い方や家族連れが多いのですが、「津和野でおじいちゃんやおばあちゃんできた」と喜んでくださることも多いです。

石飛:実はこのツアーはコロナ禍をきっかけに生まれたんです。コロナ過でキャンプが流行っていたときに、キャンプ好きをターゲットにしようと思ったんですが、通常のキャンプだと地元の大きなスーパーで食材を買ったあとはキャンプ場に滞在するので地元の人と触れ合う機会は少ないですよね。

であれば、地元の人から直接食材を手に入れてもらって、人との交流を楽しみながら地域のことを知っていただき、旬の野菜を楽しんでもらうのがよいと考えました。地元の農家さんへの売り上げにも繋がりますしね。

HaNeRi:観光する際は地元の方と交流したい人も多いと聞きます。観光客と地元の方どちらにも喜んでもらえる魅力いっぱいのツアーですね。

vol.6 (後編)津和野町Yu-na「帰ってきたくなる感幸地(かんこうち)を目指す」に続く)

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