日本政府も取り組みを後押ししている次世代の交通サービスMaaS(マース:Mobility as a Service)。高いレベルのMaaSが実現すれば、観光時の移動や体験にもよい影響が出てくると期待できます。
本記事では、MaaSにおける自転車の立ち位置や課題、データ活用などについて紹介していきます。
MaaSとは
そもそもMaaSとは何でしょうか。発祥のヨーロッパと日本国内では以下のように表現されています。
MaaSの概念・定義
MaaSはフィンランドで生まれた概念と言われており、2015年のITS世界会議で「MaaS Alliance」が設立されました。
MaaS Allianceはヨーロッパをはじめとする世界の交通機関、官公庁、教育機関、企業が参加する団体で、日本からは国土交通省やJR東日本などが加盟しています。
MaaS AllianceではMaaSについて、「さまざまな交通サービスを統合してひとつのアプリケーションで情報取得や支払いを可能にし、ユーザー、社会、環境へ最大の価値提供を目指す」としています。
参考:MaaS Alliance「Mobility as a Service?」
なお、国土交通省のWebサイトでは下記のように記載されています。
MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。
引用:国土交通省「日本版MaaSの推進」
簡単に表現すると、「移動に際して、ひとつのプラットフォーム内で複数の交通サービスの検索(情報収集)、予約、決済ができる世界やサービス」です。
5つのMaaS統合レベル
MaaSは統合の度合いによってレべル4まで分けられています。
レベル0:統合なし
レベル1:情報の統合 情報の統合による複数交通モードの検索や運賃情報の段階
レベル2:予約・決済の統合 複数の交通モードのルートを単一トリップ化(検索、予約、決済まで)
レベル3:サービス提供の統合 複数の交通サービスを定額制で提供/パッケージ化して提供
レベル4:政策の統合 まちづくりとの連携、交通制御等による人・モノのコントロール
見解により意見が分かれますが、2024年3月時点で日本はレベル2~3の一部に対応してきているといえそうです。
レベルに対応するサービス例
レベル1:経路案内サービスで交通や運賃を検索する(例:Google Map、Yahoo!路線情報を利用)→〇
レベル2:複数の交通機関で利用できる交通系ICカードで検索、予約、決済を行う→△(例:Suica、PASMOなどの1枚のICカードで決済ができる)
レベル3:エリア内の複数交通機関を定額で利用する→△(例:東京フリーきっぷ、箱根フリーパスなど、一部のエリアで定額きっぷを展開している)
レベル4:交通やアクティビティがまとめて検索~予約~決済できるアプリケーションやインフラを整備する→✕(まだ満たすサービスが存在しない)
MaaSにおける自転車の立ち位置
近年は路線バスの休廃止が進み、バスの本数が限られる、乗り継ぎが不便、といった状況が発生しています。自転車はそのような他の交通機関が不足しているエリアを繋ぐ手段としても非常に役に立ちます。
しかし、MaaSへの関心や取り組みが増える中でも、自転車への注目度はまだまだ低いようです。
例えば、2019年から経済産業省と国土交通省が開始したプロジェクト「スマートモビリティチャレンジ」の企業・地域の取組みにおいて、自転車に関する記載はほとんどありません。
新潟県新潟市と沖縄県八重山諸島の実証実験の内容でレンタサイクルに触れられていますが、採択された事業全体を見ると公共交通機関(その中でも特にバス)に関係するものが中心です。
MaaSアプリ
観光MaaSを享受するためには、どのようなサービスやツールがあるのでしょうか。自転車利用にも対応しているアプリを紹介します。
EMot(エモット)
小田急電鉄株式会社が提供するMaaSアプリ「EMot(エモット)」。
公共交通機関だけでなく、タクシーやシェアサイクルなどを組み合わせた経路検索が可能です。また、乗車券(フリーパス)や施設入場チケットなどをアプリ内で検索・決済・管理できます。
経路検索サービスには株式会社ヴァル研究所の複合経路検索サービス「mixway API」が利用されており、2024年3月時点でシェアサイクルは「ドコモ・バイクシェア」「HELLO CYCLING」「PiPPA」「ecobike」の4つに対応しています。
2024年2月に小田急電鉄はEMotについて、三井住友カードと連携してQR認証とタッチ決済サービスを拡大することや、世界180カ国以上にユーザーがいるレジャー予約プラットフォーム「Klook」との連携でバウチャー引き換えを不要にしてスマートな顧客体験を目指すことを発表しています。
国内外どちらの旅行者にとっても、ますます便利なMaaSアプリになっていきそうです。
GunMaaS
「GunMaaS」は群馬県内の移動手段を案内するスマートフォン専用のWebサービスです。このWebサービスから群馬県内の鉄道やバスのフリーパス購入やタクシー予約なども行えます。
経路検索機能はデマンド交通やシェアサイクルにも対応しているため、公共交通機関の乗り換えの接続が悪いルートでも、シェアサイクルなどを組み合わせて移動を提示してくれます。
ただし、2024年3月時点ではタクシーやシェアサイクルの支払いは「GunMaaS」のサービス外で行う必要があります。また、シェアサイクルを利用する場合のルートはマップ上では直線で表示されており、自転車を使って目的地まで行こうとすると、別のマップアプリで道順を調べ直さなくてはなりません。
他の交通手段と組み合わせながら自転車を利用してもらうためには、もう少し改善や工夫があるとよさそうです。
MaaSで自転車を活用してもらうには
MaaSにおいて、自転車という手段を積極的に活用してもらうためには、データを活用して情報提供することが効果的です。
既に利用が進んでいるデータフォーマット「GTFS」と合わせて、今後の自転車活用に生かせる「GBFS」に触れながら、交通手段のデータ活用について紹介します。
バス利用のためのデータ活用
バスは遅延などのリアルタイム情報の活用・提供が他の交通機関より比較的進んでいます。
日本では「GTFS(General Transit Feed Specification)」という交通システムに関する情報提供のために策定された世界標準の公共交通データフォーマットを基に、国内用に標準的なバス情報フォーマットを定めて活用しています。
当日の運行状況によって左右されない静的情報(停留所、経路、情報、ダイヤ情報など)や、運行に関するリアルタイム情報(遅延、ルート変更、到着予想、車両現在位置など)を、東京都交通局都営バスや東急バスなど複数の交通機関がオープンデータとして公開しています。
それらの情報をユーザーがリアルタイムで提供することで、遅延などの事態が起きた場合にユーザーは他のルートを検討したり、出発時間を調整するなどの対応をとることができます。
自転車利用のためのデータ活用
自転車では、シェアサイクルに利用できる世界共通のデータフォーマット「GBFS(General Bikeshare Feed Specification)」が利用されています。
2022年6月より、株式会社ドコモ・バイクシェアとOpenStreet株式会社(ハローサイクリング)がGBFSを公開し、シェアサイクルのシステム情報、ポートの位置情報、⾃転⾞の情報などを提供しています。
2024年3月現在、特定のエリアでは、グーグルマップでシェアサイクルを利用する場合にポートの位置と合わせて経路を検索したり、各ポート(貸出・返却拠点)における車体貸し出し状況を確認することができます。
自転車ユーザーには嬉しい機能ですが、現時点ではグーグルマップの自転車の経路検索は公共交通機関の経路検索とは別で表示され、車体の貸し出し状況も経路検索結果とは別の画面で確認する必要があります。
MaaSの観点でもGBFS活用の観点でも、更なる基盤や情報の統合が求められます。自転車が公共交通機関と組み合わせて利用しやすい環境が整備されれば、MaaSにおける自転車の位置づけも高まりそうです。
MaaSで叶える観光
交通の便が悪いところにある宿泊施設では、最寄りの駅から送迎をしてくれる場合もありますが、事前に予約をしたり、その時刻に間に合わせたスケジュールを組む必要が出てくるなどの制約があります。
もし旅行者が途中から自転車を利用して宿に向かうことができれば、自身の好きなタイミングで移動でき、宿泊地に到着してからも再び自転車に乗って付近を観光することが可能です。
そうすることで滞在時間をより満喫でき、エリアでの消費が促されます。また宿泊地側も、送迎にかかっていた時間を他のおもてなしのために使うことができるようになります。
旅行プランを立てるタイミングでそういった移動手段の提案ができると、旅行を計画するユーザの選択肢が広がりとても喜ばれそうです。
ぜひ、本記事も参考にしながらMaaSを意識した観光サービスを取り入れてみてください。