次世代電池を使った自転車が登場!?亜鉛二次電池や水素燃料電池で諸課題を克服

「次世代電池を使った自転車が登場!?亜鉛二次電池や水素燃料電池で諸課題を克服」キービジュアル

電動アシスト自転車に搭載される電池は、2024年8月現在リチウムイオン電池が主流です。

しかし、リチウムイオン電池と同等もしくはそれ以上の性能を持つ電池の研究が進められており、今後リチウムイオン電池に代わって普及していく可能性があります。

本記事では、各電池の特徴と、次世代電池を利用した電動アシスト付き自転車について述べていきます。

目次

電池について

電池には、乾電池のような使いきりの「一次電池」と、充電して繰り返し使える電池「二次電池」があります。

どちらも正極と負極、正極と負極を分けるセパレーター、電解質で構成され、電子が負極から正極に移動することで電流が発生し、電気が作られます。

リチウムイオン電池とは

リチウムイオン電池は二次電池で、2000年代からモバイル電子機器用に広く利用され、2010年代には電気自動車などでも使われはじめました。

正極にコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなど、負極に黒鉛や炭素材、電解液に炭酸エステル系溶媒が用いられます。

充電時は、電流により正極側のリチウムイオンを負極側に移動させてエネルギーを貯めます。

リチウム電池_仕組み図

参考:株式会社東芝「リチウムイオン電池ってどんな仕組み?」
参考:株式会社村田製作所「第1回 リチウムイオン電池とは?専門家が語る、その仕組みと特徴」

メリット:小型、軽量、長持ち

メリットとして、リチウムは小さく軽い物質であるため、電池自体を小型化・軽量化できます。また、自己放電しないため、電池が長持ちする特長もあります。

デメリット:出火の危険

東京消防局によると、令和5年で167件のリチウムイオン電池関連火災が確認されています。製品別に見ると、モバイルバッテリーとスマートフォンに次いで電動アシスト付自転車が3番目に多く、14件です。

そのうち、出火要因について「いつも通り使用していたが出火」「不明」という回答が計9件で、要因が分からず出火しているケースが多いようです。

表2 出火要因別火災状況(令和5年中)

引用:東京消防庁「リチウムイオン電池搭載製品の出火危険」(赤枠は弊社で加工)

メカニズムとしては、リチウムイオン電池には可燃性の電解液が使われており、衝撃や圧迫などが加わると内部の正極板と負極板がショートして、出火に繋がるとされています。

一方で、下記の表より、純正メーカーから直接購入した場合の出火件数は低いことが分かります。

表6 出火した製品の入手経路

引用:東京消防庁「リチウムイオン電池搭載製品の出火危険」(赤枠は弊社で加工)

リチウムイオン電池を搭載した製品を使用する際は、衝撃を与えない、異常がある場合は使用を止めるという心がけや行動と合わせて、純正品を選ぶことも重要です。

鉛蓄電池

リチウムイオン電池と同じ二次電池に、100年以上使われてきた歴史のある鉛蓄電池があります。

鉛蓄電池は正極に二酸化鉛、負極に鉛、電解液に希硫酸が用いられます。

メリット:安価、信頼性、寿命の長さ

鉛蓄電池は正極と負極の材料に安定的に供給できる鉛を使用しているため、リチウムイオン電池と比べて製造コストを抑えることができます。

安価で信頼性の高い電池であることや、新しい電池への置き換えがメリットを上回りにくいという理由から、2024年8月現在でも自動車バッテリーなどに使用されています。

デメリット:重さ、大きさ

鉛は「体が鉛のように重い」という表現があるように重い金属のため、鉛を材料にするとバッテリが重くなる課題があります。またサイズも大きく、スマートフォンのような小型機器への搭載には向いていません。

他にも、電解液に硫酸を使用しているため、万が一破損したときの危険性が高いという注意点があります。

亜鉛蓄電池

そこで、リチウム電池よりも安全で鉛蓄電池よりも蓄電性に優れた特長を有するとして、亜鉛蓄電池の研究開発が進められています。

ジャパンボルタ/東京大学京都大学リンショーピング大学(スウェーデン)シャープ日本ガイシFDK
正極酸化マンガン二酸化マンガンリグニン空気中の酸素ニッケル水酸化ニッケル
負極亜鉛

正極は各企業・研究機関で異なりますが、負極に亜鉛、電解液に硫酸亜鉛などの水系電解液が用いられます。

亜鉛二次電池_しくみ図

メリット:安全性、安価、リサイクル性

電解液が不燃性のため、強い衝撃を受けて破損しても発火リスクを避けられます。

また亜鉛(Zn)は供給量が多く、価格も1kgあたり3米ドル程度と安いため製造コストを抑えられます。

さらに、亜鉛やリグニンなどのリサイクルしやすい物質で製造されているため環境にもやさしいです。

参考:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「金蔵資源情報 ILZSGの亜鉛需給予測、2024年は367千tの供給過剰」
参考:株式会社メイテック「fabcross for エンジニア 亜鉛とリグニンを使用した、安価でリサイクル可能な蓄電池の開発」

デメリット:物質の特徴理解、寿命

使用されている一部の物質は、不燃性であっても有害な場合があります。発火や爆発しないという意味での安全性は高いですが、万が一 吸引などした場合は健康への影響が出る可能性があるため、その点を理解しておきましょう。

以前は亜鉛二次電池は負極から亜鉛が樹氷のような形状に成長し、セパレーターを貫通して正極とショートする問題がありました。この負極からの変形は「デンドライト」と呼ばれ、二次電池としての活用が難しい原因になっていました。しかしこの点に関しては、正極と負極を隔てるセパレーターを作成するなどして克服されてきています。

参考:日本経済新聞「シャープやFDKが亜鉛電池 リチウムに比べコスト半減も」
参考:株式会社日刊工業新聞社「ニューススイッチ「亜鉛二次電池」はリチウムを超えるか!?」

水素燃料電池

一次電池や二次電池でもない「燃料電池」も存在します。燃料である水素と酸素を化学反応させて電気を発生させる仕組みです。

水素燃料電池_しくみ図

メリット:クリーン、電源がない場所でも使える

電気を発生する際に排出されるのは水であるため、二酸化炭素や窒素酸化物を排出するときのように地球温暖化や大気汚染への影響がありません。

また、有事に電池が切れて電気の供給がなくても、あらかじめ備えておいた水素があれば電池を稼働させることができます。

デメリット:コスト、利用環境が整っていない

水素燃料電池のコストが高いため、搭載した製品の価格も高くなります。

また、水素燃料電池は2024年8月時点で新しい技術であり、普及しているとは言い難い状況です。そのため、水素を補充する環境が整っていないという課題があります。

各電池の比較

いろいろな電池が存在するため、表でも紹介します。

各電池の特徴比較

紹介した各電池の特徴をまとめると以下です。

リチウムイオン電池鉛蓄電池亜鉛蓄電池水素燃料電池
メリット小型、軽量安価、歴史がある安全、安価環境にやさしい
デメリット出火危険性あり大型、重い寿命が短い課題があったが改善されてきている高価

それぞれメリットやデメリットがあり、利用シーンに応じて適する電池も異なってきます。

重量エネルギー密度とサイクル回数の比較

次に、重量あたりの電池の容量である重量エネルギー密度と、どれくらい充電と放電を繰り返せるかというサイクル回数でも比較してみましょう。

以下は、ジャパンボルタ株式会社、FDK株式会社、東海技研グループの情報から引用・計算した概数です。

リチウム電池(三元系リチウム)リチウム電池(リン酸鉄リチウム) 鉛蓄電池亜鉛蓄電池(ニッケル亜鉛)亜鉛蓄電池(亜鉛/酸化マンガン)水素燃料電池
重量エネルギー密度(wh/kg)20113024~4048~80120(1.1リットルの水素ボンベで約100km走行)
充放電サイクル(回数)500200030090010000以上

亜鉛/酸化マンガン二次電池はデメリットが少なく、他の電池と比較しても優秀であることが分かります。

また、水素燃料電池は同じ項目での比較はできませんが、体積あたりの走行距離が一般的なリチウムイオン電池搭載自転車よりも2~3倍長くなっています。

引用: ジャパンボルタ株式会社「2次電池比較表」(リチウム電池(三元系リチウム)リチウム電池(リン酸鉄リチウム)、 鉛蓄電池 亜鉛蓄電池(亜鉛/酸化マンガン)部分)
参考:FDK株式会社「ニッケル亜鉛電池」(亜鉛蓄電池(ニッケル亜鉛)部分)
参考:東海技研グループ「水素・燃料電池電動アシスト自転車」(水素燃料電池部分)

次世代電池を使った新しい自転車が登場する?

上記で紹介したように、時代や用途に合わせていろいろな電池が登場し、進化しています。

電動アシスト自転車が抱える課題の解決や新たな価値提供に向けて、トヨタ紡織山梨大学×東海技研グループなどのように自転車搭載用の次世代電池を開発している企業や機関もあります。

水素を燃料とするFCアシスト自転車や、旧電池のデメリットを解消する亜鉛蓄電池搭載の電動アシスト付き自転車が実用化されれば、より地球にやさしく、気軽にサイクリングを楽しめるようになるかもしれません。

アシスト自転車にどのような新技術が活用されていくのか、今後も注目です。

目次