地域活性化の新たな手法として注目を集めるサイクルツーリズム。しかし、その経済効果については、まだ十分に理解されていないのが現状ではないでしょうか。
実は、サイクルツーリズムは観光消費の拡大や雇用創出にとどまらず、ブランディングや移住促進まで、多彩な経済効果をもたらしています。
本記事では、サイクルツーリズムがもたらす経済効果を具体的なデータとともに解説します。国内の取り組み事例も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
サイクルツーリズムの経済効果

サイクルツーリズムは、以下のような経済効果をもたらします。
- 観光消費の拡大
- 雇用の創出
- 地域資源の活用
- 地域のブランディング
- 地域への波及効果
それぞれ詳しく解説します。
観光消費の拡大
サイクルツーリズムは、地域経済に大きな収入をもたらします。サイクリストが移動中にコンビニエンスストアで補給食を購入したり、道の駅で地元特産品をお土産として買い求めたりと、様々な場面で消費活動を行うからです。地域の名物料理を楽しむために、地元の飲食店で食事をすることもあるでしょう。
サイクリストならではの消費行動が、地域の小売店や飲食店、宿泊施設などの売上アップに寄与しているのです。
雇用の創出
サイクルツーリズムは、地域に新たな雇用機会を生み出します。サイクリングガイドをはじめ、レンタサイクル事業の整備士やスタッフなど、さまざまな職種が必要になるからです。
さらに、サイクリストの受け入れに向けて、宿泊施設や飲食店でも新たなスタッフの雇用が生まれており、観光産業全体での雇用拡大につながっています。これらの仕事は観光シーズンだけでなく通年で必要とされるため、地域の安定的な雇用を支えていると言えるでしょう。
地域のブランドディング
サイクルツーリズムは、地域のブランディングにもつながります。美しい風景や地域の魅力を間近で体感でき、その体験をSNSで共有する人が多いからです。特に人気のスポットでは、サイクリストによる写真や動画が大量に投稿される傾向があります。
例えば、琵琶湖を自転車で1周する「ビワイチ」は、インスタグラムでは「#ビワイチ」で8万件以上の投稿があり、琵琶湖周辺の絶景スポットやグルメ情報が拡散されています。このようなSNSでの情報発信を通じて、地域の魅力が国内外に広く知られるようになっているのです。
移住の促進
サイクルツーリズムは、地域への移住・定住も促進する効果もあります。「サイクリスト国勢調査2021」によると、自転車で地域を訪れた人の47.2%が「老後をここで暮らしたい」と回答し、43.5%が「この地域にセカンドハウスが欲しい」と考えているそうです。
自転車で地域をゆっくり巡ることで、観光スポットだけでなく、日常の暮らしや地域住民との交流など、その土地の本質的な魅力に触れられるからでしょう。サイクルツーリズムは観光を振興するだけでなく、地域への新たな人の流れを創出する可能性も秘めています。
サイクルツーリズムの市場規模は年間1,315億円

「サイクリスト国勢調査2021」によると、サイクルツーリズムの市場規模は、国内で年間1315億円に達すると推計されています(2021年時点)。これは、コロナ禍前の2018年と比べて59億円増加しており、着実な成長を示しています。
同調査によると、15~74歳の男女のうち、自転車に乗ったことがある人の割合は81.1%(約7,593万人)で、そのうちサイクルツーリズムを経験したことがある人は55.6%(約4,222万人)。直近1年以内の経験者は18.2%(約1,382万人)です。
さらに、サイクリストの消費動向も拡大傾向にあります。1人1回あたりの平均消費額は、2018年の31,024円から2021年には37,356円へと増加。この数字からも、サイクルツーリズムが新たな観光スタイルとして定着しつつあることがわかります。
サイクリストの消費特性から見る経済効果

沖縄の例を見ると、サイクリストは一般観光客と比較して特徴的な消費パターンを示します。調査結果では、サイクリストの観光消費単価が80,845円と、一般的な国内観光客よりも12~25%高いことが明らかになっています。
特に消費額の違いが顕著なのは宿泊費と飲食費です。沖縄の場合、サイクリストは宿泊費で1.58~1.90倍、飲食費で1.76~1.83倍を消費しており、これは平均滞在日数が5.44日と比較的長いことが影響していると考えられます。
こうした消費特性を考慮すると、他の地域でもサイクルツーリズム推進により、特に宿泊業や飲食業において大きな経済効果が期待できる可能性があります。サイクリストの長期滞在型の観光スタイルは、地域経済活性化の一助となり得るでしょう。
参照:株式会社 りゅうぎん総合研究所「沖縄におけるサイクリスト誘客効果の推計」
サイクルツーリズムの取り組み事例と経済効果

日本国内における、サイクルツーリズムの経済効果を2つの事例をもとに紹介します。
滋賀県「ビワイチ」
滋賀県の琵琶湖1周サイクリング「ビワイチ」は、2019年11月にナショナルサイクルルートの指定を受けた人気のサイクリングコースです。体験者数は、統計を取り始めた2015年の約52,000人から、2019年には約109,000人に増加しました。
経済効果についても、2019年は約14.7億円を記録。2021年はコロナの影響で約8.7億円に減少したものの、2024年度末には約14.8億円を目標としています。
また、県は受入環境の整備として、サイクルサポートステーションを345施設から375施設へ、「滋賀県サイクリストにやさしい宿」を50施設から60施設へと拡充する計画を策定。
ゲートウェイとなる米原駅や大津港にもレンタサイクルを備えた施設を整備し、誰もが気軽にビワイチを楽しめる環境づくりを推進しています。
参照:滋賀県「ビワイチ推進基本方針」
愛媛県「しまなみ海道」
愛媛県と広島県にまたがる「しまなみ海道」は、サイクリストの聖地として知られ、2019年にナショナルサイクルルートの第1号に指定されました。2015年に開催された国際サイクリング大会「サイクリングしまなみ」では、約6億2,898万円の経済効果が発生したことが報告されています。
経済効果の内訳として、直接効果が4億2,057万円、間接効果が2億841万円と算出され、事業費に対する経済効果は1.48倍です。大会には7,281人が参加し、観客・併催イベントへの来場者を含めると約112,000人が訪れたとされています。
参加者や観客の消費額は、交通費・宿泊費・観光費などで推計約4億3,500万円。この大きな消費活動が地域経済の活性化に寄与しています。
しまなみ海道では、サイクリストに特化した休憩施設「サイクルオアシス」を400か所以上設置するなど、国内外からの来訪者に配慮したサービスも充実しています。
参照:株式会社いよぎん地域経済研究センター「サイクリングしまなみ」の経済効果は約6億3千万円
まとめ|サイクルツーリズムの経済効果について解説しました
サイクルツーリズムは、観光消費の拡大からブランディング、さらには移住促進まで、地域にさまざまな経済効果をもたらしています。
人口減少に直面する地域でも、地方創生の切り札として注目を集めています。それぞれの地域が持つ自然や文化、食といった魅力を最大限に引き出せるサイクルツーリズムは、持続可能な地域振興の新たなモデルとなる可能性を秘めていると言えるでしょう。