サイクリストの憧れ「自転車大国」台湾のサイクルツーリズムとは?

台湾のサイクルツーリズム

台湾といえば、夜市やお茶、パイナップルケーキなどのグルメが有名ですが、実は「自転車観光大国」としての顔も持っています。

なかでも、台湾一周サイクリング「環島(ファンダオ)」は、台湾人なら一度は挑戦したい「人生の3大目標」の1つに数えられるほどの国民的イベントとして定着しています。

本記事では、台湾の多彩な取り組みを紹介し、これからのサイクルツーリズムの可能性を探ります。

目次

映画をきっかけに広がった台湾一周サイクリング

台湾の街を上空から撮影した写真

台湾でサイクルツーリズムが本格的に盛り上がるきっかけとなったのは、2007年に公開された映画「練習曲」と言われています。

この映画を機に「環島(ファンダオ)」の人気が高まり、2012年には大規模イベント「FORMOSA 900」が始まります。

翌2013年には「台湾自行車節(TAIWAN CYCLING FESTIVAL)」として国家規模の催しへと進化を遂げました。

2017年には総参加者650人を記録し、そのうち4割が海外からという国際的なイベントに成長しました。

官民一体で築き上げた自転車先進国

YouBike

台湾がサイクルツーリズムの先進国へと発展した背景には、政府と民間が一体となった戦略的な取り組みがありました。

その核となっているのが、2015年に開通した全長961kmの「環島1号線」です。

台湾政府交通部が主導し整備したこの自転車専用道路は、まさに台湾のサイクルツーリズムの大動脈として機能しています。

充実したインフラ整備

台湾のサイクルツーリズムの特徴は、ハードとソフト両面での充実ぶりにあります。

ハード面では、環島1号線を軸とした自転車道のネットワーク化により、全土で9,300km超の自転車道が整備されました。

その約半数が2015年以降に整備されており、近年、積極的に投資していることが伺えます。

また、既存の自転車道を活用し、地域の魅力を引き出す取り組みも進められています。

山岳地域や田園風景、海岸線など、地域の特色を活かした複数のテーマルートを設定することで、観光資源としての価値を高めているのです。

これにより、サイクリストは自分の興味や体力に合わせて、多様なコースを選択できるようになりました。

公共交通との巧みな連携

台湾では「ダブルタイヤ」と呼ばれる自転車と公共交通機関の連携も特徴的です。

ダブルタイヤとは、公共交通機関と自転車を活用して、省エネやCO2排出削減を目的としながら観光を楽しむサービスです。

例えば、台湾の鉄道の一部では、自転車を車両内に持ち込むことが可能です。

鉄道会社のホームページでは、自転車を積み込める列車やその空き状況をリアルタイムで確認できるシステムも導入されています。

その結果、2023年1月から9月の統計では、鉄道利用者の約18.6%がこのサービスを利用するという高い利用率を記録しています。

さらに2023年7月からは月間定額定期券「TPASS」の運用が開始され、バスやYouBike(レンタサイクルサービス)などが実質乗り放題に。

台湾の北部エリアではYouBikeの最初の30分が無料になるなど、自転車利用を促進する工夫が施されています。

このように、台湾では公共交通機関と自転車の連携を通じて、利便性を向上させながら持続可能な観光を推進しています。

台湾発の自転車メーカー「GIANT」も積極的に参画

台湾の自転車文化を支える重要な存在として、世界的な自転車メーカーGIANT(ジャイアント)の存在が挙げられます。

1972年創業の同社は、サイクリング専門の旅行会社「ジャイアント・アドベンチャー」を設立。

台北市と連携してYouBikeを運営するなど、自転車文化の形成に大きく貢献してきました。

2023年には、同社が提供する環島ツアー(9日間、910km)に103団体約5,000人が参加しました。

戦略的なプロモーション活動も積極的に展開

台湾のサイクリングロードを自転車で走っている様子

ソフト面では、台湾交通部観光署による多彩なプロモーション活動が展開されています。

海外でのCM放映や旅行博への出展、インフルエンサーの活用など、年間60回以上の海外展示会に参加し、延べ3,600万人以上にリーチしています。

また、国内外の旅行会社やメディア関係者を招いたツアーも100回以上実施され、約1,000人が台湾のサイクルツーリズムを体験。

SNSや各種メディアを通じて、台湾のサイクリング環境の魅力が世界に発信されています。

自転車大国として世界をリード

台湾は、これまでの取り組みをさらに進化させ、2024年から「第2期環島自転車道路及びマルチ化ルート統合推進計画」をスタートさせます。

第1期の3.5倍以上となる約285億円の予算を投じ、「国際化」「地域化」「自転車道路網のアップグレード」を軸に、さらなる発展を目指しているのです。

この取り組みの成果はすでに表れており、年間2~3万人が台湾一周(環島)に挑戦し、数十万人以上が一部区間を楽しんでいます。

台湾のサイクルツーリズムまとめ

台湾がサイクルツーリズムの先進国として成功した要因は、政府による戦略的なインフラ整備とプロモーション、そして民間企業の積極的な参画にあります。

さらに、何より自転車文化を受け入れ、育てた市民の存在も大きいでしょう。

世界的に「持続可能な観光」への注目が高まる中、環境に優しい移動手段である自転車の重要性はますます高まっています。

台湾のサイクルツーリズムの取り組みは、これから観光振興を目指す国や地域にとって、貴重な参考事例となることでしょう。

韓国や中国のサイクルツーリズムについても知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
海外のサイクルツーリズム(アジア編):台湾・韓国・中国の動向やコース例を紹介

参考:国土交通省「九州一周サイクリングルート設定に向けたマーケット調査事業

参考:りゅうぎん総合研究所「台湾における自転車利用促進に向けた取組み

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